糖尿病性腎臓病の原因物質や2型糖尿病におけるインスリン抵抗性がアルツハイマー病脳のアミロイド蓄積を促進するメカニズムなどが解明されております。また、高齢の1型糖尿病患者における無自覚な低血糖やフレイルの併存における2型糖尿病患者の骨折リスクに関する研究結果を取り上げております。内容を確認し、知識補完にお役立てください。

糖尿病性腎臓病の原因物質が解明 (4月23日)

東北大学と岡山大学の研究グループは、腸内細菌が産生に関わる「フェニル硫酸」が、糖尿病性腎臓病の原因物質かつ予測マーカーとなり得る事を明らかにしたと発表し、記事が「Nature Communications」に掲載された。

研究チームは、ヒトの腎臓毒素排泄を模した遺伝子改変ラットを用いて糖尿病性腎臓病の発症時に蓄積し、その排泄を促すことで病気の進行が抑えられる代謝物を網羅的に探索した。その結果、糖尿病性腎臓病による腎障害に関わる重要な代謝物質として、フェニル硫酸が同定された。このフェニル硫酸をさまざまな糖尿病性腎臓病モデルマウスに経口投与したところ、全ての糖尿病性腎臓病モデルでフェニル硫酸の投与によりアルブミン尿が増加し、ポドサイトや基底膜が障害された。さらに、このフェニル硫酸のポドサイト障害は、細胞のエネルギーを生産するミトコンドリアに対する毒性によって生じることが明らかとなった。

つぎに、岡山大学と共同で実際の糖尿病患者(362 人)の臨床データ(U-CARE 研究)と血中フェニル硫酸の関係を追跡調査したところ、フェニル硫酸は糖尿病患者で高く、その値はアルブミン尿に比例すること、また、糖尿病性腎臓病患者のなかでも治療において重要な介入時期とされている微量アルブミン尿期の患者では、フェニル硫酸が腎機能や血糖と独立して2年後のアルブミン尿増悪と相関する因子であることが明らかとなった。これらのことから、フェニル硫酸が糖尿病性腎臓病の原因物質である共に、新たな予測因子となる事が明らかとなった。

さらに、フェニル硫酸を低下させる事がアルブミン尿や腎機能の改善をもたらすかどうか検討した。フェニル硫酸は、腸内細菌が持つチロシン・フェノールリアーゼ(TPL)という酵素によってアミノ酸の1つであるチロシンがフェノールに変換された後、体内に取り込まれ肝臓でフェニル硫酸に変換されてできている。そこで、糖尿病モデルマウスにTPL阻害剤(2-AZA-チロシン、2-AZA)を経口投与した結果、糖尿病モデルマウスの血中フェニル硫酸濃度が下がり、アルブミン尿が減少した事が確認された。さらに、腎不全マウスに2-AZAを投与したところ、血中フェニル硫酸濃度が下がったと同時に腎不全が改善する事が明らかとなった。

以上のことから、TPL阻害剤が糖尿病性腎臓病だけでなく腎不全においても有効な治療法である事が示唆された。

2型糖尿病におけるインスリン抵抗性がアルツハイマー病脳のアミロイド蓄積を促進するメカニズムを解明 (4月12日)

東京大学の研究グループは、糖尿病によってアルツハイマー病の発症リスクが高まるメカニズムの一端をマウスで解明した事を発表し、記事が「Molecular Neurodegeneration」に掲載された。

研究グループは、脳にAβが蓄積するADモデルマウスを用いて、高脂肪食により誘発されたインスリン抵抗性と、インスリンシグナル伝達に重要なIRS-2を欠損することによるインスリン抵抗性の影響を解析した。その結果、高脂肪食の負荷は末梢臓器の炎症性シグナルやストレスシグナルを増加させ、末梢や脳のインスリン抵抗性を引き起こすと同時に、脳ではAβの蓄積が増加、一方、IRS-2を欠損すると、糖尿病を発症するもののAβの蓄積は抑制された。しかし、IRS-2欠損マウスに対して持続的に高脂肪食を負荷すると、糖尿病病態の悪化とともに、Aβの蓄積は再び増加した。すなわち、食餌誘導性のインスリン抵抗性によってのみ、ADの病態は促進されることが明らかとなった。これらの結果は、インスリンの作用低下そのものではなく、インスリン抵抗性発症の要因となる代謝ストレスが、ADの病態促進に重要である可能性が示されている。脂肪食負により脳のAβが増加しても、その後の食事制限を行うことでインスリン抵抗性が改善し、その改善の程度に応じて脳の Aβ 蓄積も可逆的に減少する事も明らかとなった。

さらに同研究では、これまで詳細が明らかになっていなかったインスリンやAβの脳内での動態を解明するため、脳の細胞間隙に存在するタンパク質を回収可能な微小透析法を用いた解析を行った。その結果、高脂肪食の摂取による糖尿病状態では、血液中から脳へのインスリンの移行が低下することにより、脳でもインスリン抵抗性が生じる可能性を示された。また同時に、糖尿病状態のモデルマウスの脳内では、Aβの除去速度が低下することで、アミロイド蓄積が増加する可能性も明らかとなった。

高齢の1型糖尿病患者における無自覚な低血糖 (3月29日)

高齢の1型糖尿病患者は1日に1時間以上気づかないうちに低血糖を経験している可能性があることが米国際糖尿病センターの研究で確認され、研究結果が米国内分泌学会で発表された。

本研究は、60歳以上の1型糖尿病患者203人を対象に、持続血糖測定器(CGM)を最大21日間装着し、血糖値については研究者が把握するにとどめ、患者には知らせず1日の血糖変動を測定した。なお患者の半数はインスリンポンプを使用しており、全体的にADAが推奨する範囲で糖尿病はコントロールされている。研究の結果、対象患者の血糖値は平均して1日当たり72分間は70mg/dLを下回り、1日当たり24分間は54mg/dL未満まで低下していることが確認された。また、無自覚性低血糖の患者では、より長時間にわたる低血糖を経験していることも明らかになった。

フレイルの併存で2型糖尿病患者の骨折リスクが上昇 (3月28日)

2型糖尿病患者はフレイルになりやすく、フレイルが併存すると脆弱性骨折リスクが高まる可能性がある事が、中国の広東省第二人民医院の研究で報告され、記事が「Diabetes Care」に掲載された。

本研究は、138人(女性が60%)の2型糖尿病患者を含む3,149人(女性の70%)を対象に前向きに分析し、フレイルと骨折リスクの関連と、フレイルが2型糖尿病患者の骨折リスク上昇に関連しているかどうかについて検討を行った。結果、2型糖尿病患者群では糖尿病のない対照群と比べて骨密度およびフレイルの評価指標であるFrailty Index(FI)スコアが高かった事が示された。また、FIスコアと脆弱性骨折リスクとの間には有意な関連が認められ、統計学的に有意な相互作用が認められた。一方、大腿骨近位部骨折および臨床的な脊椎骨折のリスクについては、フレイルと2型糖尿病の関連は認められなかった。